難治性の慢性咳嗽
患者像

CASE4

70歳 女性(架空のものです)

監修

医療法人社団 弘惠会 杉浦医院 理事長

杉浦 敏之先生

CASE4
職業主婦
家族アレルギー疾患なし
喫煙歴夫からの受動喫煙あり
ペットなし
BMI32.8
アレルギーカビ
咳嗽持続期間3ヵ月(乾性咳嗽)
併存疾患COPD/気管支喘息/アレルギー性鼻炎
胸部X線異常なし
喘鳴なし
Eos(%)3.0
喀痰なし
COPD:慢性閉塞性肺疾患

経過/様子

  • 10年前から湿性咳嗽を自覚して受診。同居の夫からの受動喫煙あり、カビアレルギーあり。胃食道逆流症の兆候認めず。
  • 胸部X線検査異常なし、呼吸機能検査では1秒量の低下を認める。聴診呼気終末にpipingを認め、気管支喘息と診断。中用量ICS/LABA、去痰剤で治療開始。
  • その後、咳、痰の増悪寛解を繰り返し、副鼻腔気管支症候群を疑い加療するも奏功せず、高用量ICS/LABAに切り替え治療継続。
  • 3ヵ月前から乾性咳嗽が増悪傾向。アレルギー性鼻炎、アトピー咳嗽由来を疑い、ステロイド点鼻薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬を追加投与するも咳嗽は残存した。
  • コロナ禍にて呼吸機能検査の実施が難しく、問診、聴診、胸部X線検査、末梢血好酸球測定にて再度診断を行うも異常は認められなかった。
  • 腰痛のため近隣の整形外科に通院していたが、コロナ禍ということもあり、待合室や診察室で咳き込むと嫌な顔をされてしまい肩身が狭く、通院を断念した。
  • 買い物中も他人の目が気になり、外出しづらい気持ちを抱えている。
ICS:吸入ステロイド薬
LABA:長時間作用性β2刺激薬

監修医師からのコメント

医療法人社団
弘惠会 杉浦医院
理事長
杉浦 敏之先生

クリニックでは、検査体制が限られており専門施設のような十分な検査は難しいこともあります。また、検査可能な設備を整えていたとしてもコロナ禍では飛沫を懸念してスパイロメトリーの実施が困難なケースもあります。しかし、限られた状況でも、胸部X線、聴診により肺癌、肺炎、肺結核などの除外診断を行い、原因と考えられる疾患の診断的治療により、原因疾患の精査を行っていくことができます。
本caseの患者さんは、COPD、気管支喘息を原因とした咳嗽が続き、副鼻腔気管支症候群の診断的治療も経たうえで、原因疾患治療を十分に行いましたが乾性咳嗽だけが残存し、アレルギー性鼻炎やアトピー咳嗽を疑った症例です。
また、気管支喘息が原疾患の患者の場合は、血液検査により好酸球性炎症を確認し、高値の場合は生物学的製剤などの治療が必要となるため専門医に紹介します。
このように一般医療機関では、『喘息診療実践ガイドライン2022』のフローに沿った診断により慢性咳嗽の原因を見極めます。
今回の患者さんのように咳症状の身体的負担のみならず、咳による日常生活の社会的・心理的な負担、ストレスを多く抱えている方も少なくありません表 難治性の慢性咳嗽患者の疾病負荷