診療

成人遷延性・慢性咳嗽の分類

慢性咳嗽は「広義の」慢性咳嗽と「狭義の」慢性咳嗽に分類されま1)

広義の成人遷延性・慢性咳嗽は呼吸器感染症、悪性疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、「原因が比較的容易に特定できる咳嗽」と定義されています。
一方で、狭義の成人遷延性・慢性咳嗽は「容易にその原因が特定できない咳嗽」を指し、考えられる原因として副鼻腔気管支症候群(SBS)、咳喘息、胃食道逆流症(GERD)、アトピー咳嗽/喉頭アレルギー、感染後咳嗽の頻度が高いとされています。

成人遷延性・慢性咳嗽への対応

慢性咳嗽の診療は問診や所見、画像検査などにより、原因を特定することが基本で1)

『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』では、成人遷延性・慢性咳嗽(3週間以降)への対応フローチャートが示されています。
はじめに、医療面接、身体所見、胸部X線写真などで原因を推定し、原因が特定できる場合には、広義の慢性咳嗽として各原因疾患の診療ガイドラインに沿って治療を行います。原因が特定できない場合には、狭義の慢性咳嗽として、頻度の高い疾患を想定して治療的診断を行います。喀痰がある場合(湿性咳嗽)には、副鼻腔炎などの精査を行い、副鼻腔気管支症候群(SBS)の治療的診断を開始します。喀痰を伴わない場合(乾性咳嗽)には、咳喘息やGERD等の主要な疾患に焦点を当て治療的診断を行います。

検査

主な臨床検1)

遷延性・慢性咳嗽の原因を特定するためには、非専門施設であっても、血液・喀痰・画像検査などを可能な範囲で実施することが重要です。

病歴と治療

【狭義の慢性咳嗽(原因が容易に特定できない咳嗽)1)
遷延性・慢性咳嗽の各原因疾患に特異的な病歴と治1)

遷延性・慢性咳嗽の診断は、病歴と検査所見から疑い診断(治療前診断)をつけることから始まり、治療前診断に対する特異的な治療を行い、それが奏功して初めて確定診断がつきます。そのため、咳嗽の持続期間、痰の有無に加え、各疾患に特異的な病歴および治療法を熟知する必要があります。

『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』における咳嗽治療薬のステートメン1)

咳嗽治療薬に関して、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』のステートメントでは下記の内容が記載されています。

診断基準

咳喘息(CVA)の診断基1)

咳喘息は8週間以上続く喘鳴や呼吸困難を伴わない咳嗽です。3~8週間であっても診断は可能とされますが、3週間未満では確定診断しないこととされています。
また、気管支拡張薬が有効とされており、診察中や突発的な咳であれば短時間作用性薬剤の吸入により即座に効果判定が可能となります。夜間の咳が続く場合には、長時間作用性の薬剤(貼付もしくは吸入)を1~2週間用いることとされています。

アトピー咳嗽の診断基1)

アトピー咳嗽は、8週間以上の咽喉頭のイガイガ感を伴います。
喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続し、アトピー素因または誘発喀痰中好酸球増加が確認された例において、咳喘息に有効な気管支拡張薬が無効であることを確認した上で、ヒスタミンH1受容体拮抗薬やステロイド薬が有効であった場合に治療的診断をすることができます。

通年性喉頭アレルギー(慢性)を疑うポイン1)

通年性喉頭アレルギーを疑う場合、咳嗽および咽喉頭異常感が8週間以上持続し、アトピー素因が確認された例で、下気道疾患、GERDならびに後鼻漏症候群が除外され、治療的診断としてヒスタミンH1受容体拮抗薬が著効することがポイントとなります。
なお、季節性の基準は、通年性喉頭アレルギー診断基準の1と2を、花粉飛散時期として期間の条件を外したものとなります。

胃食道逆流症(GERD)による咳嗽を疑う病歴の特徴(治療前診断)と治療効果による確定診断(治療後診断)のポイン1)

GERDによる咳嗽の診断は、まず病歴や問診を中心に治療前診断を行い、PPI、消化管運動機能改善薬ならびに肥満・食生活の改善といった胃食道逆流(GER)に対する治療により、咳が消失または緩和することで確定診断となります。
GERDに特徴的な病歴として、会話、食事、起床、上半身の前屈ならびに体重増加などに伴う咳の悪化や、胸やけ等の食道症状、咳払いならびに嗄声等の咽喉頭症状を伴うことなどが挙げられます。また、咳込みによる嘔吐、咳の原因と考えられる薬剤の服薬がなく、咳喘息や上気道疾患等の咳の原因に対する治療への反応が不十分である場合にもGERDの合併を疑います。

感染後咳嗽

感染後咳嗽とは、「呼吸器感染症(特にかぜ症候群)の後に続く、胸部X線写真で肺炎などの異常所見を示さず、通常、自然に軽快する遷延性ないし慢性咳嗽」と定義されます。
臨床的な診断が基本であり、①かぜ症候群が先行していること、②遷延性咳嗽あるいは慢性咳嗽を生じる他疾患が除外できること、③自然軽快傾向がある場合に診断されます。

副鼻腔気管支症候群(SBS)の診断基1)

副鼻腔気管支症候群は、呼吸困難発作を伴わない湿性咳嗽が8週間以上持続し、副鼻腔炎を示唆する症状や検査所見、画像所見を認め、14・15員環系マクロライド系抗菌薬や喀痰調整薬による治療が有効であった場合に確定診断されます。副鼻腔の上気道と気管支・細気管支領域の下気道における好中球性気道炎症の存在を確認することが重要であるため、鼻汁および喀痰塗沫標本中に好中球の増加を認めることが参考となります。

評価

咳嗽の評価方法として様々なPRO(Patient reported outcome)評価が推奨されていま1)-8)

『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』では、様々な評価指標が示されています。
咳VASは、患者が自分の咳の程度を「0:まったく気にならない」から「100:耐えられない」までの間で表現する主観的評価法で、簡便であることから汎用されていま1)-3)
レスター咳質問票(LCQ)は、身体面・精神面・社会面の計19項目の質問からなり、各質問について7段階で評価するものです。スコアが高いほどQOLは良好と判断しま1)4)-6)
咳症状スコアは、昼間と夜間に分けて咳の頻度、強さ、全体的インパクトを評価しま7)
咳重症度日誌(CSD)は、7項目からなる簡便な日誌で、咳の重症度とインパクトを評価しま8)

文献

  • 日本呼吸器学会, 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019. メディカルレビュー社.
  • Morice AH, et al. Thorax. 2006; 61 Suppl 1: i1-24.
  • Nguyen AM, et al. Ther Adv Respir Dis. 2021; 15: 1-13.[ 本研究はMerck & Co., Inc., の支援によって実施された]
  • Birring SS, et al. Thorax. 2003; 58(4): 339-43.
  • 新実彰男、小川晴彦.日本語版レスター咳質問票(J-LCQ)[ LCQ日本語版は新実彰男先生、小川晴彦先生が著作権を保有している]
  • Nguyen AM, et al. Ther Adv Respir Dis. 2022; 16: 1-13.
  • Hsu JY, et al. Eur Respir J. 1994;7:1246-53.
  • Veron M, et al. Ther Adv Respir Dis. 2010; 4(4) : 199-208. [本文献の著者にMerck & Co., Inc.,の社員が含まれる]