難治性の慢性咳嗽
患者像

CASE5

75歳 女性(架空のものです)

監修

秋田大学大学院医学系研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座 教授

山田 武千代先生

CASE5
職業主婦
家族アレルギー疾患なし
喫煙歴なし
受動喫煙あり
ペットなし
BMI27.2
アレルギーなし
咳嗽持続期間半年(乾性咳嗽)
検査値
併存疾患不明(咳過敏状態)
副鼻腔X線検査異常なし
胸部CT検査異常なし
Eos(%)5.6
IgE(IU/mL)25
FeNo(ppb)10
咳VAS(mm)65

経過/様子

  • 半年前から毎日20回/時間 以上の咳が続くようになった。
  • 後鼻漏感があるも喘鳴・喀痰はみとめない。副鼻腔XP/胸部CTは異常なく、好酸球5.6%、アレルギー検査は陰性であった。その他の血液検査、呼吸機能検査でも異常なく、重大な呼吸器疾患や感染症の疑いはないと判断した。
  • マクロライド少量投与、漢方薬、抗ヒスタミン薬による治療でも咳嗽の改善なく、GERDの兆候を疑いPPIを投与するも効果なし。吸入ステロイドを2週間投与するも改善は認めなかった。
  • 料理など家事をしている時に突然咳嗽が発現し止まらなくなり困っている。
  • 診察中にも咳嗽が発現することもあり、日常生活でも会話中に突然発現して、会話しづらくなることがある。そのため本人も咳の辛さを感じるとともに他人に心配をかけてしまうことがストレスである。
GERD:胃食道逆流症

監修医師からのコメント

秋田大学大学院医学系
研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部
外科学講座 教授
山田 武千代先生

咳を主訴とし悩まれる患者さんは耳鼻咽喉科にも多く受診されます。
咳嗽が長引く患者さんの診察にあたっては、咳の原因として容易に特定できる疾患(肺結核、肺がん、喘息、COPD、鼻副鼻腔疾患など)や感染症などの除外が必要です。今回の患者さんは、当院で副鼻腔XP/胸部CT、血液検査、呼吸機能検査を経て、考えうる狭義の慢性咳嗽に対する診断的治療を試みましたが咳嗽の改善が認められず、難治性慢性咳嗽と診断しました。しかし、一般医療機関における日常診療においては実施可能な検査も限られており判断が難しいケースも多いかと思います。耳鼻咽喉科であれば少なくとも副鼻腔XPやアレルギー検査を実施し、考えうる原因疾患を確認することが推奨されます。
さらに、この患者さんのように考えうる原因疾患の治療を行っても治療反応性に乏しく、さらに「料理や家事の途中に突然咳が止まらなくなる」、「会話中に咳が出て止まらなくなる」といった症状は咳過敏症候群(CHS)の可能性があります。日本呼吸器学会発刊の『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』では、「CHSの定義は低レベルの温度・機械的・科学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床的症候群である」と記載されています。これは気道過敏性とは異なる概念であり、知覚神経や中枢神経系の関与が示唆されています。このCHSの兆候の有無も問診の重要なポイントと考えます。
原因疾患に対する治療が奏功しない、あるいは原因疾患が不明の慢性咳嗽患者さんは身体的、精神的、社会的のいずれの側面でもQOLが低下しているという報告1)もあります。このような患者さんの背景をしっかりと探ることが治療の第一歩となります。

COPD:慢性閉塞性肺疾患
1)Kubo T, et al. BMJ Open Resp Res. 2021; 8(1): e000764.