難治性の慢性咳嗽
患者像
50歳 男性(架空のものです)
静岡県立総合病院
副院長 呼吸器内科部長 教育研修部長
白井 敏博先生
職業 | 接客業 |
家族 | アレルギー疾患なし |
喫煙歴 | なし |
ペット | なし |
BMI | 27.2 |
アレルギー | なし |
併存疾患 | 喘息疑い/原因不明 |
咳嗽持続期間 | 4ヵ月(乾性咳嗽) |
検査値 | |
胸部X線検査 | 異常なし |
FVC(L) | 3.08 |
%FEV1(%) | 80.5 |
FEV1%(%) | 70.5 |
FeNo(ppb) | 15 |
ACT | 14 |
咳VAS(mm) | 56 |
ICS:吸入ステロイド薬、LABA:長時間作用性β2刺激薬、LAMA:長時間作用性抗コリン薬
難治性の慢性咳嗽と判断するポイント
咳の誘発因子は何か
難治性の慢性咳嗽の要因の一つとして、通常では反応しないはずのわずかな刺激でも咳が止まらなくなる咳過敏症候群(CHS)が挙げられ、主な咳の誘発因子として咽喉頭の異常感やイガイガ感などが報告されています1)。患者さんは、どのようなシーンで咳が出やすいのか意識していないケースも多いため、問診で思い出してもらうことが重要です。
咳以外の喘息症状や検査値はコントロールできているか
咳以外にも喘鳴や息切れなどがある、呼吸機能やFeNOなどの数値が異常を示している、といった典型的な喘息コントロール不良な状態であれば喘息治療のステップアップが必要となります。考えられる治療でも、咳以外の症状が特になく検査値が正常であれば、難治性の慢性咳嗽の可能性を疑います。
鼻副鼻腔疾患やGERDが合併していないか
喘息の合併症や咳の原因として、鼻副鼻腔疾患(鼻炎・副鼻腔炎)やGERDの存在も考えられます。所見が認められる場合はそれぞれの標準治療(抗ヒスタミン薬やPPIなど)を実施することが基本ですが、その可能性が低い、もしくはそれらの治療でも咳が残存する場合は、難治性の慢性咳嗽と考えられます。
【利益相反】本研究は、MSD社の支援によって実施された。著者のうち5名がMSD社の社員である。
監修医師からのコメント
静岡県立総合病院
副院長 呼吸器内科
部長 教育研修部長
白井 敏博先生
原因疾患の標準治療を行っても持続する咳は、
難治性の慢性咳嗽と判断し治療内容を見直すことが必要
難治性の慢性咳嗽と聞くと、一見「治療をしても数年単位で咳が続いている状態」をイメージしてしまいます。しかし、8週間以上の咳でも考えられる原因疾患の標準治療で改善が見られない場合も当てはまります。
日本喘息学会の『喘息診療実践ガイドライン(PGAM)2023』では、慢性咳嗽のフローチャートが掲載されており、胸部X線での異常や喘鳴が認められない場合は「プライマリ・ケアで容易に原因を特定できない慢性咳嗽」として咳喘息/咳優位型喘息やアトピー咳嗽/喉頭アレルギーなどの治療的診断に進みます。専門的な検査が難しい一般医家の先生方でも、比較的容易に参照できる内容です。これらに基づいて、早期に難治性の慢性咳嗽と判断された場合には治療内容を見直すことで、年単位で咳が続かないよう対策を講じることが重要です。