難治性の慢性咳嗽
患者像
40歳 女性(架空のものです)
公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院
病院長補佐・呼吸器内科部長・感染症科部長・感染制御対策室室長
丸毛 聡先生
職業 | 会社員 |
家族 | アレルギー疾患なし |
喫煙歴 | なし |
ペット | なし |
BMI | 22.5 |
アレルギー | なし |
併存疾患 | 喘息/感染後咳嗽 |
咳嗽持続期間 | 3ヵ月(乾性咳嗽) |
検査値 | |
胸部X線/CT検査 | 異常なし |
%FEV1(%) | 90 |
末梢血好酸球数(/μL) | 10 |
IgE(IU/ml) | 10.5 |
FeNo(ppb) | 22 |
経過/様子
- 10年前に妊娠を契機に近医で喘息と診断され、ICS/LABAの定期吸入によりコントロール良好を維持していた。
- 3年前に喘息症状や各検査値が安定していたことからICS/LABAを中止し、その後も再燃がない状態が続いた。
- 3ヵ月前に新型コロナウイルス感染によって高熱と咳嗽が発現したが、軽症で無治療自宅療養で解熱した。
- 2ヵ月前、自宅療養解除後も咳嗽が持続し、近医において喘息再燃疑いでICS/LABA/LAMAを処方されたが軽快しなかった。
- 追加で経口ステロイド薬(OCS) を連日服用したが咳嗽が残存したため、生物学的製剤導入目的で近医から総合病院を紹介された。
- 総合病院であらためて胸部CT検査や呼吸機能検査、2型炎症バイオマーカーの測定を行ったところ、特に異常は見られなかった。
LABA:長時間作用性β2刺激薬
LAMA:長時間作用性抗コリン薬
喘息患者における咳嗽と咳過敏症のメカニズム
喘息をベースとした症例において難治性の慢性咳嗽と判断するポイント
ICS/LABA/LAMAで治療しても咳嗽が持続している
喘息コントロールを維持するためには、臨床症状や呼吸機能を安定させることが不可欠のため中用量ICS/LABAから治療を開始します1)。
特に症状が強い症例ではICS/LABA/LAMAまでステップアップし1)、それでも咳嗽が持続している場合は難治性の慢性咳嗽の可能性を疑います。
2型炎症は認められず病的な咳嗽だけ残存している
喘息患者における咳嗽のメカニズムとして、2型炎症によるものとは別に、迷走神経を介した咳過敏の存在が考えられます。
吸入療法によって好酸球数やIgE値、FeNOといった2型炎症のバイオマーカーが正常にも関わらず、病的な咳嗽だけが残存している場合は、咳過敏を伴う難治性の慢性咳嗽の可能性を疑います。
OCSを定期使用している
『喘息予防・管理ガイドライン2021』では、「経口ステロイド薬は短期間の間欠的投与を原則とする」とされています1)。
OCSの間欠的投与では咳嗽が治まらず、定期使用している場合は難治性の慢性咳嗽を疑います。
監修医師からのコメント
公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院
病院長補佐・呼吸器内科部長・感染症科部長・感染制御対策室室長
丸毛 聡先生
喘息患者で病的な咳嗽だけが残存する場合は、
難治性の慢性咳嗽として2型炎症とは別のアプローチも求められる
喘息では、新型コロナウイルスをはじめとする呼吸器感染症によって症状が再燃しコントロール不良のきっかけとなることが多く、時に病的な咳嗽だけが残存することもしばしば見受けられます。
本資材で取り上げた症例でも、2型炎症のバイオマーカーが正常にもかかわらず、咳嗽だけが続いてOCSを定期使用していました。従来であれば、重症喘息として生物学的製剤の導入を考えるケースだと思います。
しかし、喘息患者における咳嗽のメカニズムとして、近年2型炎症によるものだけでなく、迷走神経を介した咳過敏症の存在も明らかとなっています。その場合の、原因疾患の治療と同時に咳嗽に特化した評価と治療の重要性がLancetに掲載されました2)。
喘息の基本治療でも病的な咳嗽だけが残存する場合は、ステロイド薬や生物学的製剤などの喘息治療ではカバーできない機序を疑い、難治性の慢性咳嗽としてアプローチすることも求められます。
2)Lai K, Niimi A et al. Lancet Respir Med. 2023; 11(7): 650-62.