難治性の慢性咳嗽
患者像

CASE8

38歳 女性(架空のものです)

監修

医療法人社団 誠和会 藤木内科外科クリニック 院長

藤木 玲先生

CASE8
職業事務職
家族アレルギー疾患なし
喫煙歴なし
ペットなし
BMI25.2
アレルギーなし
併存疾患喘息
咳嗽持続期間3ヵ月(乾性咳嗽)
検査値
胸部X線検査異常なし
FeNo(ppb)147
非特異的IgE(IU/mL)39
初回 8週間後
FVC(L) 3.08 3.20
%FEV1(%) 76.4 85.3
FEV1%(%) 70.5 85.0
ACT 18 23
咳VAS(mm) 日中 45 40
夜間 70 0
その他強制呼出により呼気延長
「痰が絡んでいる」と訴えがあるが痰の喀出は認めない
FeNO:呼気中一酸化窒素濃度
ACT(喘息コントロールテスト) 20点未満:コントロール不良、20~24点:Well control(良好な状態)、
25点:Total control(完全な状態)

経過/様子

  • 32歳時に喘息と診断された。
  • 3ヵ月前より、話したり笑ったりしたときに咳が出たり、冷気を吸入したときに咳き込む、明け方に咳で目が覚めるなど、発作性の咳や呼吸困難が出現し、それに伴い睡眠障害や仕事に影響を来すようになり、近医で中枢性鎮咳薬、抗菌薬を処方されるも改善しなかった。
  • その後、近医でICS/LABA/LAMA配合剤が処方され、2週間後に呼吸困難は軽減し、夜中に咳嗽で目が覚めることはなくなった。一方で咳嗽(日中・夜間ともに)は残存した。
  • ICS/LABA/LAMA配合剤の処方から8週間後、咳込むことはなくなったが、日中の咳嗽は残存しており、仕事に支障がある。
  • SABAは無効であった。
  • 喉のイガイガ感 (irritation)に続いて咳をしたくなる感覚(咳衝動:urge-to-cough)がみられる。
ICS:吸入ステロイド薬
LABA:長時間作用性β2刺激薬
LAMA:長時間作用性抗コリン薬
SABA:短時間作用型β2刺激薬

Well control/Total controlを達成した喘息患者に残存する症状のチェックポイント

まずは喘息症状を安定させることが必要となるため、中用量ICS/LABAから治療を開始し、症状にあわせて適宜ICS/LABA/LAMAまでステップアップし、喘息のWell control(良好な状態)/Total control(完全な状態)を目指します1)

喘息の適切な治療により、Well control(良好な状態)/Total control(完全な状態)を達成しても、咳嗽が残存することがあります。その場合は難治性の慢性咳嗽を疑います。

特に、咳嗽以外の喉のイガイガ感(irritation)などの症状が残存していることもあるため、丁寧な聞き取りが必要であるとともに、これらも難治性の慢性咳嗽の症状のひとつと考えられることから、それを念頭においた診療が求められます。

1)一般社団法人日本アレルギー学会 ガイドライン委員会(監). 喘息予防・管理ガイドライン2021. p.109. 協和企画.

監修医師からのコメント

医療法人社団 誠和会
藤木内科外科クリニック
藤木 玲先生

喘息患者で治療を行っていても、特に、日中に咳嗽だけが残存する場合は、
難治性の慢性咳嗽としてアプローチすることも求められる

遷延性/慢性咳嗽の原因疾患としては喘息が最も多くを占めています。本症例は、ICS/LABA/LAMA配合剤による治療で、夜間の咳嗽は治まったものの、日中の咳嗽が残り、仕事に差し支えるとのことでした。そのような症例では、ステロイド薬や生物学的製剤などの喘息治療ではカバーできない、咳過敏症候群のような機序を疑い、難治性の慢性咳嗽としてアプローチすることも求められます。
当院でもWell control(良好な状態)/Total control(完全な状態)を達成した喘息患者に残存する症状としては、日中の咳嗽が多い印象です。
今回の患者さんのように、咳自体の症状のみならず、咳による日常生活の社会的・心理的な負担やストレスを多く抱えている方も少なくありません。そのことからも、治療中の喘息患者さんの日中の咳症状やそれによる日常生活への影響についても耳を傾けるよう心掛けることが重要です。