難治性の慢性咳嗽
定義と疫学

難治性の慢性咳嗽とは

「難治性の慢性咳嗽」は、治療抵抗性の慢性咳嗽(RCC)と原因不明の慢性咳嗽(UCC)に分類されま1)

難治性の割合・原因疾患

難治性慢性咳嗽の原因疾患として、咳喘息/喘息が最多を占めていま2)

医師を対象とした慢性咳嗽および難治性慢性咳嗽の原因疾患および治療に関するインターネット調査によると、難治性慢性咳嗽の割合は一般内科で24.4%、呼吸器内科で20.9%、耳鼻咽喉科で19.1%でした。
また、難治性慢性咳嗽の単一原因疾患は各科ともに咳喘息/喘息が最多となっています。一般内科および耳鼻咽喉科では、感染後咳嗽が、呼吸器内科ではアトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)が次いで多いことが示されました。

治療の実態

難治性慢性咳嗽の治療薬別処方医師割合【咳喘息/喘息】2)

※いずれかの診療科で治療薬として選択された割合が10%以上であった薬剤

咳喘息/喘息を原因疾患とする難治性慢性咳嗽において、すべての診療科で70%を超える医師が「吸入用ステロイド薬・β2刺激薬合剤(ICS/LABA)」を処方すると回答しており、続いてロイコトリエン受容体拮抗薬の処方頻度が約45%と半数 近いことが示されました。これに続いて処方頻度が高かった薬剤は、一般内科では中枢性鎮咳薬(麻薬性)43.2%、呼吸器内科では中枢性鎮咳薬(非麻薬性)35.0%、耳鼻咽喉科では去痰薬 34.0%でした。

疾病負荷

難治性の慢性咳嗽患者さんでは、身体的、精神的、社会的な負荷が大きいことが示されていま3)-5)

難治性の慢性咳嗽患者自身にインタビューした論文報告によると、コロナ禍で周囲からの目を気にする、咳が出ることへの不安といった精神的な負荷、吐き気や息苦しさ、頭痛につながるといった身体的な負荷を訴えるなど、咳による負荷は多岐にわたることが明らかになっています。

咳過敏症候群(CHS; Cough hypersensitivity syndrome)

難治性の慢性咳嗽の病態として、咳過敏症候群が提唱されています。

これまで、慢性咳嗽は主に喘息・咳喘息、アトピー咳嗽/喉頭アレルギー、鼻炎/副鼻腔炎、GERDなどの慢性疾患によって起こると考えられてきました。
しかし、これらの患者の大部分は慢性咳嗽を訴えないこと、また、慢性咳嗽患者の多くはどの疾患カテゴリーにも当てはまらず、特発性、難治性、原因不明と診断されることが一般的であることから、喘息・咳喘息、アトピー咳嗽/喉頭アレルギー、副鼻腔炎、GERDなどの病態は咳嗽の直接的な原因ではなく、関連する又は引き金として作用する可能性があると考えられます。
これらから、近年、「咳過敏症候群(CHS)」という新しいパラダイムが提唱されました。
咳過敏症候群は、咳を主症状とし、「様々な疾患や原因がトリガーとなり、低レベルの刺激でも咳が発生する症候群」として定義されています。

原因不明の慢性咳嗽患者では、乾燥や会話などにより咳が誘発されることが明らかとなっています6)

咳に関連する喉頭感覚および咳誘発因子について、CHQ (Cough Hypersensitivity Questionnaire)を用いて評価した報告によると、慢性咳嗽患者と比較して原因不明の慢性咳嗽と診断された患者では、乾燥、会話、食事、香水/匂い、胸やけ、消化不良、熱気によって咳が誘発される割合が有意に高いことが示されています。

文献

  • Irwin RS, et al. Chest. 2006; 129(1 Suppl): 1S‒23S.
  • 佐野 秀樹 他. 新薬と臨牀 2021; 70(10): 1229- 55. 【利益相反】著者のうち6名がMSD社の社員である
  • Ueda N, et al. BMC Pulm Med. 2022; 22(1): 372. 【利益相反】本論文の著者5名は、MSD.K.K.ならびにMerck & Co Inc, Rahway, NJ, USA.の社員である
  • Wright ML, et al. Am J Speech Lang Pathol. 2022; 31(4): 1719-25.
  • Hulme K, et al. J Health Psychol. 2019; 24(6): 707-16.
  • Won HK, et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2019; 11(5): 622-31.